「10年目の検証」で原発事故を清算するな
3.11から10年目を迎える中で、TV各局は改めて原発事故の検証番組を組んでいる。
その多くは地震や津波に対する見通しの甘さを指摘し、専門家の指摘を無視して防潮堤の嵩上げを怠った東電の無責任で杜撰な体質や、事故後も情報を隠し続けてきた隠蔽体質をクローズアップしている。
さらに、最近では事故を起こした一、ニ号機のベント用排気管が上部まで繋がっていなかったという欠陥が、社民党・福島みずほ議員の国会質疑を通して明らかになった。この事は、爆発の有無に関わらず、ベントをしていれば大量の高濃度放射性物質を建屋とその周辺地域に放出していたという事だ。
こんな事は「安全神話」以前に、規制委(旧保安院)を含む原発技術者による核に対する緊張感の欠如、驕りでしかない。
ただ、本質的な事は、こうしたことではない。技術上、運用上の問題は今後もまだまだ出てくるに違いない。しかし、それらの問題点が仮に解決し、安全基準が厳しくなれば、原発は安全なエネルギーだと言えるのか。
諸々の検証番組を「10年を節目にした再稼働への布石」「原発事故の清算」にしてはならない。
(2020/10月の記事に加筆更新しました)
福島原発事故はECCS(緊急炉心冷却装置)が未完の技術であることを実証したのだ!
この間の検証番組でも明らかにされているが、これまでの原発事故を見れば分かるように、それらの多くがシステムの誤動作や人為的ミスが複合し、大事故に発展していくことが極めて多いということが分かる。むしろ、地震や津波といった要因は全体から見れば特異な条件に過ぎない。それだけ原発は完成されていないシステムだということなのだ。
また、本来ならECCS(緊急炉心冷却装置)は、放射能を環境中に放出しない為の最後のよりどころとして、命綱のような役割を求められた筈であるが、実際にはこれが作動すると炉内圧力が急上昇し、想定外の事態に発展してしまう可能性がある。これまでの事故を見ても、ECCSの作動が逆に混乱を引き起こしているものさえある。
さらに
その意味で、福島原発事故は取り返しのつかない犠牲を払って行った最初の「実証実験」なのであり、まさにこの究極の安全装置=ECCSが未完成の役に立たないものであることを証明したのだ。それを取り繕うための方策がベント基準の厳格化なのである。
つまり当初の原発技術計画では、絶対解決されていなければならなかった問題――どのような事態に陥ろうとも、絶対に環境中に放射性物質を排出しない――が解決できなかった結果として、炉心が爆発するのを防ぐ為に人類と環境を破壊することを厭わない、ベントという手段によって核物質を含む高圧の蒸気を環境中に放出しようというのだ。
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そもそも、事故に対応する作業というのは高線量下で線量計を携行しての短時間作業を人海戦術的に行うことになり、精神的にも平時とは全く違った緊張状態を強制されること、こうした被曝作業の多くが下請けや非正規雇用労働者によって担われることが多く、全電源喪失などというような極限状態を想定した訓練(たとえば暗闇の中でいくつかあるバルブの一つを手動で開くなど)をすべての現場労働者に行っているとは考えられない。
経産省の官僚や政治家、電力会社の上層部はこうした現実を一切無視しており、原子力規制委員会が定めた新安全基準なるものも、およそこれらのことを全く考慮せず、机上でものを言っているに過ぎない。これまでの事故と、何よりも福島の教訓をつぶさに検証する姿勢があれば、こんな杜撰な規制基準で再稼動できるはずがない。
事故はいつでも起こり得るし原発事故は一旦起きてしまったら止めることができない。できることの方が奇跡といった方がよいのではなかろうか。