正道有理のジャンクBOX

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インボイス制度に隠された消費増税と利権政治

法人税据え置き(便宜供与) ⇒ パー券購入(見返り)

自民党政権に納税義務を説く資格などない

自民党・安倍派の議員が1000万円以上のキックバック=闇献金を受けながら、自分たちで決めた政治資金規正法の報告義務さえ平然と無視しているばかりか、それが何にどう使われたのかも明かされないまま、地検特捜部も会計責任者の立件だけでお茶を濁そうとしている。
考えてみれば、大企業にとっては自民党政権法人税の引き上げをしない見返りにパーティ券を購入したとしても決して損にはならない。これは政治資金規正法違反というよりも、実質的な政権と財界の贈収賄と考えた方がよいのではないか。

そんな政権が、中小零細や個人事業者、低所得者に納税義務を説く資格があるのか、と言いたくなるのは当然だ。

ところが、年間売り上げ一千万円に満たない免税事業者を追い詰め、課税事業者への転換を迫ろうするインボイス制度が昨年10月から導入された。

消費税導入で、もともとあった社会保障費が削られている

そもそも、インボイス制度とは消費課税の上に成り立つ制度である。消費税は、その導入時の説明では、社会保障を充実させるための財源などとも言われていた。しかし今日、医療保険介護保険などの保険料率は年々上昇し、年金からの特別徴収によって高齢者が受け取る年金の実質額は下がる一方である。他方では社会保障費は年々切り下げられている。
忘れてならないのは消費税が導入される以前から、社会保障費は一般会計予算の中に組み入れられていたものだということだ。社会保障の充実のために消費税(目的税として)を導入したのであれば、一般歳入からの社会保障費にプラスして消費税収入が当てられなければならないのである。ところが、消費税=社会保障費であるかのようなレトリックの中で、社会保障費がわずかに増えているように見えても、それは保険料の値上がり分によるもので(一般会計予算が年々増えているにもかかわらず)一般会計で本来組み込まれていた社会保障予算は消費税収入が増えるほど減額され、もって実質的な社会保障費は年々切り下げられるということである。

消費税が貧困層に重くのしかかり、社会保障の充実にはまったく寄与していないどころか、社会保障切り捨ての目くらましにされているのである。

インボイス制度の導入は消費増税の布石なのか

ところで、このインボイス制度の導入をめぐる国会審議では、「なぜ、インボイス制度の導入が必要なのか」とその理由を問われた岸田総理や財務大臣は「複数税制の結果、本来10%で申告するものが8%で申告されるなどの誤りや不正確な申告がある。しかし、それを検証しようとしても書類が残されていないため検証できない」という趣旨の答弁をしている。では、そのような誤りがどれだけあり、税制を揺るがすような問題なのかと言えば、全くそうではない。しかも、2%の差額の是正のために、全事業所が端末を整備し、煩雑な事務や帳票管理を迫られ、それを避けるために新たにソフトを導入する必要があるのか。また、取引先情報が丸見えになり、個人情報が漏洩しかねないリスクを負う必要がどこにあるのか。
免税事業者からも消費税を取りたてるということ以外には、現在的なメリットは何もないインボイス制度だけに、これは標準税率を15%、20%に引き上げることを睨んだものではないかという疑念の声が上がっている。標準税率と軽減税率との開きが大きくなれば、それぞれについて帳簿上はっきりさせることに意味があるからだ。

いずれにせよ、「一部の免税事業者が苦しめられるだけ」「事業者でない個人には関係ない」と傍観していたら、そのうちに自分も苦しむことになるという話だ。消費税の上に成り立つインボイス制度を消費税もろとも葬むらなければならない。

インボイス制度のカギ=「仕入れ税額控除」

その上で、インボイス制度とはどのようなものかを整理してみたい。
これまでは小規模事業者や個人事業者などで前々年の課税売上が1000万円以下の事業者は免税事業者とされてきた。それが2023年10月のインボイス制度導入によって、今後(若干の経過措置を経て)これらの事業所が適格請求書を発行しない場合、取引先の業者は「仕入税額控除」を利用できなくなった。

仕入税額控除」とは

課税売上の消費税額 - 課税仕入れの消費税額 = 納付する消費税額

つまり、売上金とともに消費者から徴収した消費税分をそのまま納付するのではなく、仕入れの際に支払った消費税分を差し引き、その差額を納付すること。これが「仕入れ税額控除」である。

従って、この控除が受けられない場合には、売り上げに係る消費税をそっくり納付したうえで、仕入れに係る消費税はそのまま(自社で)負担しなければならない。

仮に、仕入れ先業者がこれまでの免税事業者で、「適格請求書発行事業者」に登録(=インボイス制度導入)していない場合、この事業者からの仕入れ分に対しては「仕入れ税額控除」が受けられず、自社負担が増えることになる。このため発注が減らさせたり、取引自体を断られるという事がおこり得るのである。

そして、免税事業主に該当した会社や個人が、「適格請求書発行事業者」に登録すると、その日の売り上げ分からは、課税事業者として消費税の納税義務が生じるのである。

これは、これまで免税とされてきた小規模事業者が、否応なしに課税事業者に置き換えられていくドミノゲームであり、それで成り立たない事業者に廃業を迫る攻撃に他ならない。

上の図でわかるように、常に1000万円を超える売り上げがあるような課税事業主にとっては、消費税の算出方法は基本的に変わらない。そして仕入れや売り上げに対する税の計算を含めた経理は、規模の如何を問わず、社員数名という小さな会社でさえ、今どき電卓で計算し手書きの請求書を発行しているなんてまずない。それなりの経理システム、帳票管理システムは備えているのである。だから、インボイス制度などと言うものが導入されて、これに対応したシステムに置き換えることは負担も大きく、事務も煩雑になるだけなのだ。データの保管法や期限の変更だけなら何も大騒ぎすることではない。

免税業者と課税業者を選別し、免税事業者を排除する制度

問題は、この制度が導入された結果、免税事業者と課税事業者が選別され、相手が免税事業主(適格請求書発行事業者に未登録)の場合には仕入れに係った消費税は、自社負担にさせるという、当てつけがましいことをやって、零細企業や個人事業主から一円でも多く税金を搾り取ろうという魂胆である。

 「お前のところが、消費税を免除されている分、うちが代わりに収めているんだ。これでは、お前のところとの取引は出来ない。仕事が欲しければ適格請求書発行事業者になれ」

ということになる。このことは実質的には免税事業者との間での仕出しや仕入といった取引を排除し、否応なしに課税事業者になることを強制するものに他ならない。

これまで、代金+消費税として請求はするが、これをすべて売上金として計上してもよいとされてきた小規模零細事業者からもガッツリと消費税を分捕ろうというのが、インボイス制度の狙いである。

では、仕入れたものを個人消費者に売っているだけの小売業者などの場合はどうか。

この場合には、免税業者のままであっても問題はないが、例えば近所の企業の事務員さんがしょっちゅう買い物にきて領収書を発行することがある文房具店や雑貨屋さん、接待や宴会で利用されることの多い飲食店など、事業所(法人)関係のお得意様や常連さんがいる場合には、適格請求書がないと不都合が起こる可能性がある。

また、建設業界には下請け、孫請けの下で「一人親方」と呼ばれる人たちがいる。芸術の世界では、自分のデザインや企画を企業に売り込むこともある。その他、自分の技能、知識、経験を生かしたベンチャービジネスも増え続けている。こうした個人事業者をすべて課税事業者に追い込んで、しっかり税を取り立てようという訳である。

(ここでは詳しく触れないが、インボイス制度の導入によって、これまでは簡易な納税申告として個人事業者に利用されてきた白色申告が、帳票の管理、申告書の記載等でこれまでよりも煩雑になっている)

インボイス制度とマイナンバーカードは表裏一体

個人からの徴税はマイナカードで、事業所からの徴税はインボイス制度で

このところ保険証との紐づけが強調され、その前は訳の分からないポイントとの紐づけが宣伝され、何が何だか分からなくなっているマイナンバーカードだが、導入当初の狙いは、個人の銀行口座と紐付けし、年金や各種保険制度を含め、政府が個人の収入・資産と税を一体的に把握し管理しようとするものだったのである。

これと並んで、大企業の裾野を支えてきた無数の中小零細企業(免税事業者)からも消費税を厳しく取り立てる方法はないものかと考え付いたのが、このインボイス制度なのだ。
背景には、国民の福祉とは無縁なところで高じてきた放漫財政がある。未曽有の収益を更新し続ける大企業の法人税には手を付けず、福祉の切り捨てと低所得層からの収奪、そして肥大化する財政支出のために返す当てのない国債を増発し、他方では政権延命のためにアメリカからの防衛装備品調達に精を出し、軍事費を膨らませて戦争国家化へと突き進んできた自民党政権の悍ましい政治の結果、日本の財政は破綻し、すでににっちもさっちもいかない借金地獄に陥っているのである。

こうして、少しでも取れるところから搾り取ろうとして、その前提として個人と事業所の収支を国家によって把握しようと考えたのがマイナンバーカードとインボイス制度なのだ。

政府にとって、この2つは徴税のための車の両輪なのである。

背景はIT、端末、カード業者との利権か

そしてインボイス制度やマイナンバーカードの導入問題には、もう一つの視点が必要だ。

経理システムを煩雑にして、これに合わせたシステムを導入させ、ソフトや端末機器メーカーの利権を誘導しているということだ。背後には、事務機器やIT・ソフト関連企業の利権が絡み、これで甘い汁を吸っている政治家がいるに違いないのだ。インボイス制度にしろ、マイナンバーカードの導入にしろ、そのためのソフトとハードに絡む業種は極めて多く、まさにこうした業界からの何らかのキックバックがあると考えて不思議はない。

しかし、今わが国に必要なのは、政治家の金の出入りを国民が監視し管理するシステム構築の方が先のような気がする。