正道有理のジャンクBOX

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原発汚染水の海洋放出を絶対許すな

 汚染水放出への怒りを排外主義の扇動でごまかすな!

菅義偉首相は7日夕、首相官邸で全国漁業協同組合連合会の岸宏会長と会談し、東京電力福島第1原発から出る放射性物質トリチウムを含む処理水の処分方針について意見交換した。会談後には記者団の取材に、処分方針を「近日中に判断したい」と表明したが、一方の岸会長は政府が目指す海洋放出に「絶対反対との考えはいささかも変わらない」と強調していた。

こうした中で、政府は13日に加藤勝信官房長官をトップとする関係閣僚会議を開き、東電福島第1原発にたまり続ける放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出を行なうとする基本方針を決めた。

政府は処理水を人体に影響が出ないレベルまで薄めて海に流す方法を検討しているが、漁業関係者の不安と怒りは極めて大きい。

この決定をうけ世界から懸念と抗議の声が上がっている。

とりわけ韓国では市民団体がいち早く怒りの声を上げ、マスコミもそれを取り上げているが、それは政府の決定をオブラートに包む極めて悪質なものである。韓国以外の海外の反応をほとんど無視し伝えないという形で、「韓国は日本政府のやることに何でも反対する」「反日」だと宣伝し排外主義を煽っているのである。あたかも韓国だけが嫌がらせのために日本の海産物への輸入規制をしているかのような報道さえある。事実は全くそうではない。こうした嫌韓意識を煽ることによって、汚染水海洋放出への民衆の怒りを帳消しにしたいという意図が透けて見えるではないか。こうしたメディアを使った宣伝に騙されてはならない。

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全世界で怒りと懸念の声が高まっている 

しかし事実は政府が考えるほど簡単に進むとは思わない。

世界24カ国の311の環境団体が「福島第一原発の汚染水を海洋に放出してはならない」とする書簡を日本の経済産業省に届けたことを12日に明らかにしている。この書簡には、世界各国の市民およそ6万5000人が署名している。この書簡を届けた「福島原発事故10年国際署名実行委員会」(各国の環境団体の連合体)の代表は、「福島県をはじめとし、(日本の)多くの人たちが(汚染水の海洋放出に)大きく反発しています。海外からも、憂慮・反対の声が多くあがっています」とさらなる反対の声をあげてほしいと呼び掛けている。

また、これとは別に国際環境団体グリーンピースも同日、日本政府の汚染水放出計画の撤回を求める世界の市民の請願18万3754筆を経済産業省に提出した。

また、IAEAは日本の立場に理解を示していたが、国連のボイド特別報告者(人権と環境担当)らは15日、日本政府による東京電力福島第1原発処理水の海洋放出決定に「深い憂慮」を表明したとされている。

ボイド氏らは「汚染された水が海洋に放出されることで、日本国内外の人々の人権を無視できない危険にさらすことになる」と批判。「海洋放出以外の選択肢もあると専門家は指摘しており、今回の決定には失望させられた」としている。(4月16日東京新聞

 このように、世界中の人々が日本政府の決定に懸念を表明しているのだ。

 トリチウムだけを強調し、それ以外の放射性核種を隠蔽

ところで、少し原発に詳しい人ならトリチウムを含む原発の汚染物質は世界中がこれまでも放出してきているではないか、と疑問を持つことだろう。

事実、トリチウムはこれまでも日本はもとより、韓国はじめ世界中の原発で環境中に放出されてきた。では、福島第一原発の汚染処理水の海洋放出はどこが問題なのか。

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 菅義偉首相は「2年後をめどに放出を開始する」と表明。その内容は
①基準をはるかに上回る安全性を確保し、政府を挙げた風評対策の徹底を取
 り組む
②海洋放出はこれまでも国内で行ってきた実績がある。
③東電は原子力規制委員会への申請や設備工事を経て、事故から30~40年の
 廃炉期間内に海へ流す。
トリチウムの濃度は、世界保健機関(WHO)が定めた飲料水基準の約7
 分の1に薄め、年間放出量は当面、事故前の放出管理値と同じ22兆ベクレ
 ルを下回る水準とする。
というものである。

これに対して、専門家が危惧しているのは、トリチウムだけがクローズアップされていることである。そして、多くのメディアが汚染水を多核種除去装置「ALPS」で浄化しても、トリチウムだけが除去できないと報じている
その一方で原発推進派はトリチウムが放出する放射線は弱い」「自然界にも存在する」「通常の原発でも発生し、基準を満たせば海に流している」水と同じだから体内に摂り込んでも、そのほとんどが排出される」と、海洋放出は問題ないと主張するのである。

では、トリチウム以外の核種は完全に除去されるのか。除去しきれないとすればどの程度なのか。ここが問題になるのだが、この点はほとんど報道されない。

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 東京電力が2020年12月24日に公表した資料によると、処理水を2次処理してもトリチウム以外に12の核種を除去できないことがわかっている。
また、二次処理後においても半減期が長いヨウ素129(約1570万年)、セシウム135(約230万年)、炭素14(約5700年)などが残るとされている。

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増してや、二次処理前の汚染水では上の表のように、ストロンチウム90(半減期28.79年)、セシウム137(同30.1年)など高濃度で半減期の長い放射性物質が大量に含まれたままなのである。

二次処理をせず、薄めただけの「ALPS処理水」 汚染水の定義を書き換えた目眩まし

ところで、東電のホームページには「多核種除去設備=ALPS」について次のように書かれている。

「多核種除去設備」は、福島第一原子力発電所で発生する汚染水を浄化する設備のひとつです。この設備にある、吸着材が充てんされた吸着塔に汚染水を通すことによって、放射性物質を取り除く仕組みになっており、トリチウム以外の大部分の核種を取り除くことができます。なお、汚染水に関する国の「規制基準」は
①タンクに貯蔵する場合の基準、②環境へ放出する場合の基準の2つがあります。
周辺環境への影響を第一に考え、まずは①の基準を優先し多核種除去設備等による浄化処理を進めてきました。そのため、現在、多核種除去設備等の処理水はそのすべてで①の基準を満たしていますが、②の基準を満たしていないものが8割以上あります
当社は、多核種除去設備等の処理水の処分にあたり、環境へ放出する場合は、その前の段階でもう一度浄化処理(二次処理)を行うことによって、トリチウム以外の放射性物質の量を可能な限り低減し、②の基準値を満たすようにする方針です。

 政府も東電も、少なくともこの基準を作った時点では、二次処理を施さない汚染水を海洋に放出することはできないと認識してきたはずであった。また、メディアにも地元漁業関係者にもそのように説明してきたのだ。

ところが、政府と菅政権は「汚染水を水で希釈して放出するのだから安全だ」と主張しはじめた。(もちろん、そうした声は推進派の中から常に聞こえてきてはいたのだが)
そして、驚くべきことに経済産業省は、政府が海洋放出を決めた4月13日に、こっそりと「ALPS処理水」の定義を書き換えていたのである。

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そこで言われていることは「ALPS処理水の処分の際には、二次処理や希釈」によって安全基準を大幅に下回るようにしているのに、規制値を超える放射性物質を含むものと誤解されるから今後はそれを「ALPS処理水」と呼称する、それが風評被害対策でもあると開き直っているのだ。

これまでは二次処理をして規制値以下にしたものを「ALPS処理水」と呼んできた。これからは二次処理をせずに規制値以下に薄めたものも含めて「ALPS処理水」と呼ぶというのである。つまり、これまではコップの中の汚染水そのものを飲めるまでに浄化すると言っていたのに、浄化せずに風呂桶に入れて薄めて流すから毒ではないと言っているに等しい。
13億5千万㎦もある海水の量に比べれば、放出される汚染水が薄められたかどうかが大きな問題なのではない。環境中にどれだけの量の放射性核種が放出されるかが問題なのだ。

政府も東電も、トリチウムは生体内に蓄積されず、ほとんど体外に排出されるから安全だと説明してきたではないか。それは、逆に言えば、トリチウム以外の放射性核種は生体内に蓄積濃縮するという科学的事実を承認してきたということである。

水で薄めても放射性物質の総量が変わらなければ、半減期が過ぎるまでは海を漂うことに変わりはない。そして、それは回遊魚や海藻などによって濃縮され、食物連鎖によって人間が食することになるのだ。生体内で蓄積し濃縮する半減期の長い放射性物質は例え、微量であっても環境中に放出することがあってはならないのだ。

だから、これまで処分できずに来たのではなかったか。

勝手に定義を変えて、高濃度の汚染水も薄めて流せば大丈夫というなら、はじめから海に流すのとどこが違うのか。こんなことは世界の誰も認めはしないだろう。

この先、何十年も汚染水を海洋に垂れ流すつもりか!

原子力規制委員会の調査チームは1月26日、2、3号機の原子炉格納容器の上ぶたが極めて高濃度の放射能で汚染されているとする報告書案をまとめた。

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それによると、メルトダウン炉心溶融)を起こした2、3号機の格納容器の上ぶたの汚染レベルは想定を大きく超えており、2号機では放射性セシウムの濃度は少なくとも2京~4京ベクレル(京は兆の1万倍)で、事故時に大気に放出された量の2倍程度と推計されている。3号機も3京ベクレルと極めて高い。デブリがある格納容器底部の毎時7~42シーベルトにも匹敵する。この上ぶたは直径約12メートル。分厚いコンクリート製の3枚重ねで、総重量約465トン。動かすのは容易ではない。格納容器の上にも下にも毎時10シーベルトを超える線量を放つデブリがあるようなものである。この蓋を撤去して初めて溶け落ちたデブリの取り出しが始まるのである。

このように、次々と難題に直面している福島第一原発の事故処理作業において、溶け落ちたデブリの取り出しはこの先20年~30年で終わるかどうかも見通せていない。その間、高濃度の汚染水は増え続けるのである。

一度、海洋放出を認めてしまえば政府と東電は、順次この汚染水を海洋に流し続けるに違いない。

原水禁では、トリチウム汚染水の「海洋放出」を許さない緊急打電行動として総理官邸への抗議のメッセージ行動を呼び掛けている。

首相官邸ホームページ」⇒「ご意見、ご感想」⇒「首相官邸に対するご意見等」へアクセスしてください。下記URLから直接アクセスできます。 https://www.kantei.go.jp/jp/forms/goiken_ssl.html

 これからの2年間、諦めることなく「原発汚染水の海洋放出断固粉砕」を掲げ全国の人民は福島の漁民、世界の反核運動と連帯し反対の声を大きくしていきましょう。